「植物はすごい」(田中修)

「植物はすごい」の表紙

ひっつき虫と呼ばれるオナモミはその実の外皮に鋭いとげがたくさんあり、そのとげで身を守り、動物の体や人間の衣服に”ひっついて”種子を運ばせるすごい作戦で生きている。イラクサ(刺草 とげ(刺)のことを古くはイラといったそうだ)は葉にたくさんの刺毛を備えている。イラクサの刺毛にはアセチルコリンやヒスタミンといった毒性の物資を含んでいて動物に食べさせないで自分を守っている。ちなみにイラクサを漢名では蕁麻というそうである。蕁麻疹はそこからくるようである。(第一章 自分の体は自分で守る)

タデ、トウガラシ、ダイコン、ワサビ、コショウ、ショウガ、サンショウなどは辛みを携えていて、この辛みで体を食べられないように守っている。たとえばダイコンの辛みの成分アリルイソチオシアネートという物質は根の先端に多く含まれていている。これは根が土中深く成長していく際に虫に食べられて成長を阻止されないようにするためである。またトウガラシの辛みの成分カプサイシンも昆虫などに食べられないように身を守っている。それゆえ昆虫が多い地域ではトウガラシはカプサイシンを多く含み、昆虫の少ない地域ではトウガラシはカプサイシンをほとんど含まない。レモンやミカンやスダチのクエン酸、カタバミのシュウ酸(=オキザリック・アシッド オキザリスはカタバミのこと)などの酸っぱさ、タケノコの蘞(えぐ)さの成分ホモゲンチジン酸、これらはいずれもその酸っぱさや蘞さで身を守っている。(第二章 味は防衛手段)

 

東京中央郵便局の多羅の樹  東京中央郵便局の多羅の樹の説明プレート

昔インドでは「多羅樹(たらじゅ)」の葉にお経を書いた。それにちなんで「葉書き」といわれる。現に東京中央郵便局や京都中央郵便局には「多羅の樹」が植えられている。郵政省はこの「多羅樹」を葉書きの樹・郵便局の樹と定めている。またバナナの皮には文字が書ける。葉や皮が虫などにかじられるとそこから病原菌が入ってきて植物を死滅させる。それを防ぐために、植物はいわばかさぶたに相当する黒色の物質を出して身を守る。この黒色の物質こそポリフェノールだ。バナナやリンゴはその切り口が空気中の酸素と接触するとポリフェノールを活性化させる酵素の働きも手伝ってポリフェノールを出して身を守る。文字を書くとき引っ掻いた部分に黒色のポリフェノールが浮かび上がるというわけだ。(第三章 病気になりたくない)

 

葉が竹に似ていて花がピンク色で桃に似ているので夾竹桃(キョウチクトウ)と呼ばれるようになった。夾竹桃は塩分や排気ガスに強く長期に渡って咲き続けることもあって沿岸や道路の街路樹としてよく見かける。だからというべきか夾竹桃は恐ろしく有毒な物資オレアンドリンを持っている。夾竹桃の英語名オレアンダーに由来する。バーベキューの串にこれを用いたために死者が出るという事件があったそうだ。もちろんこの有毒物質で夾竹桃は身を守っている。(第四章 食べつくされたくない!)

 

地球温暖化の原因物質の一つとされる二酸化炭素。。。増加したとしても空気中の0.04%以下、窒素・酸素の%と比較すれば超微量。したがって植物の光合成にとってこの二酸化炭素は実は不足であるようだ。それと引き換え光の量・光の強さは二酸化炭素量とのバランスからすればとても使いこなせないほど過多である。光合成で用いてこそ有用な太陽光線、今となっては植物にとって過剰で有害な太陽光線、これが植物体内に蓄積する。つまり有害な活性酸素を蓄積させる。。。かくして植物はこれに対抗して抗活性酸素物質たるビタミンCやビタミンEを作り出すという仕組みを持つ。光合成曲線が示す光飽和の示す意味かもしれない。生きるための摂理。ハイビスカスの鮮やかな赤やアジサイの紫など植物を彩るのは概ねアントシアニンやカロテンといわれる色素である。これらの植物を美しくさせている色素は強い太陽光線によって生じる活性酸素に対抗する防護物質である。(第五章 やさしくない太陽に抗して、生きる)

植物は脳のような中枢そのものはないが組織や組織系が役割分担をして有機的に機能し、植物全体を生かしている。形態やメカニズムが異なっているが動物と全く同様に「生きている」生き物であることを再認識させてくれる。他著も含めて田中先生の著書は科学的で詳細で目に浮かぶようにわかりやすい。この植物学の名著を読むと、周囲の植物がみんなそれぞれ工夫して子孫を残し続けるために、けなげでしかもしたたかな「生き物」であるのだってみえてくる(いや実際にそうなんだ!)。

植物には矜持を保つすごさがある。(p115)

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