♪ Le Quattro Stagioni
“赤毛の司祭”ことアントニオ=ヴィヴァルディ(1678~1741)は450曲にのぼる協奏曲を作曲した。そのうち7割以上はヴァイオリンに関する協奏曲であるそうだ。その中でもとりわけ名曲中の名曲であるのが「四季」を含む「和声と創意への試み」(作品8)と題されるヴァイオリン協奏曲集(全12曲 ただしうち1曲はオーボエ協奏曲)~これは1725年アムステルダムで出版~である。「四季」はその12曲中最初の4つの協奏曲のことである。その内訳は、1番「春」、2番「夏」、3番「秋」、4番「冬」、5番「海の嵐」、6番「喜び」、7番 標題なし(ニ長調)、8番 標題なし(ト短調)、 9番 オーボエ協奏曲ニ短調、 10番「狩り」、 11番 標題なし(ニ長調)、12番 標題なし(ハ長調)。9番を除いてすべてヴァイオリン協奏曲である。「四季」は断然人口に膾炙している名曲であるが、「海の嵐」「喜び」「狩り」など標題のついてる曲も「四季」に勝るとも劣らない「ヴィヴァルディ節」満載の虜になるような名曲である。
ヴィヴァルディの曲はロッシーニの場合と同様どれも似ているので、「取り替え」が可能である(笑)。 にもかかわらず、何度でも聞きたくならせる魅力に満ちている。ヴィヴァルディと聞いただけで乾いたさわやかさと快適な速度感がよみがえってきてわくわくする。「四季」は本当に誰でも知っている曲なのに流れていると聴いてしまう。幸福な気分にさせる。ロッシーニ・シンドロームも全く同じ「症状」である。
歌の国イタリアのメロディはきっと万人の本能による受容に合致する。それは特に「生きたい」という本能だろう。「仲間になりたい」という本能かもしれない。特にイタリアは夏乾燥・冬湿潤の地中海性気候だ。「夏乾燥」こそわれわれがイメージする乾いた空気や明るい空を連想する。メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」は開放の乾いた空気が支配する曲だ。
世界中にいったいどれだけの「四季」のCDやレコードがあるだろうか?得られる情報の中でということになるが、つまり(my collection)わずか数十種類の中から、現在の最高の1枚を選ぶとすれば、ヴィヴァルディの「四季」における現在の最高の演奏は、最高という基準を移ろいゆく自然の描写性とそれを受容する情感の合致という点に置くとすれば、ジュリアーノ=カルミニョーラのソロヴァイオリンとソナトリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカによる豊かな表情と起伏に富んだ突き抜けるような演奏を除いて他にはない!!
カルミニョーラの奏でるピエトロ・グァルネリ(1773年製)は地中海を覆う真っ青な大空のように乾いてどこまでも明快である!! たたみかけるアレグロやプレストは古楽器奏法にマッチして素晴らしくハイテンポでヴィヴィッドだ!! 独特の短く持った運弓法から発せられるノンヴィヴラート奏法、その弦音は突き刺さるように飛んでくる!! この奏法効果を最大限に引き出して緩急強弱が感情の移ろいにゆだねながら自在である。「夏」の緩徐楽章は静かに流れ音楽が止まりそうである。「冬」の最終楽章アレグロは冬の猛威が荒れ狂う。同じ楽譜なのに「四季」が深い陰影に満ち溢れ立体感をもって息づく!!
アルゲリッチのピアノ演奏と同様、カルミニョーラの演奏も生き物のような音楽で満ちているので唖然とする卓越した技術ですらその陰に隠れてしまうほどである。目の覚めるような力強さに圧倒され共感を楽しむとき、まさしく音楽の目的がヴィヴィッドネスを体感することだと、音楽の目的が人間に「生命」や「勇気」や「幸福」を播種するものだと、カルミニョーラの卓越したヴィルトォジティは迫ってくる。
古楽器演奏の草分けはなんといってもアーノンクールだ。アーノンクーには様々な酷評も存在したが、創造が人間の最高の価値とすれば、アーノンクールこそ既成概念を勇気をもって打ち破った最高の価値の所有者である。クリムトやカール=ポパーはウィーンで既成を脱して創造の領域を開拓したではないか。アーノンクールの「四季」(1975年)は本当に一世を風靡した。現在でもこの新鮮さは全く変わらない。ノンヴィヴラートとスタッカート奏法が「快速の四季」の先駆けとなった。ノンヴィヴラート奏法は音を途切れさせない点に留意するので結果的にテンポが速くなりフレーズが短くなり感情移入が減少する。結果的に古楽器にもかかわらずややもすればザハリッシュな現代的な演奏となった。カルミニョーラの演奏も古楽器演奏だが、彼の均質で直線的でモノフォニックな音色はそれがゆえに清新で力強い息吹を「四季」に吹き込んだ。しかもそれは潤いのある情感豊かな息吹である。エウロパ=ガランテ率いるビオンディの四季はカルミニョーラのエピゴーネンかもしれない。しかし、しかし、ビオンディの演奏はその多彩なエンターテインメントがゆえに単なるエピゴーネンに終始するどころか聴く者をくぎ付けにする。スタンテイジやクイケンの古楽器演奏の四季は清澄な空気に満ちていて落ち着いた演奏である。
Antonio Vivaldi(1678~1741)
Le Quattro Stagioni 1 ~period instruments /my collection~
ソロ・ヴァイオリン | オーケストラ |
A・アーノンクール | ニコラウス・アーノンクール(指揮)W.C.M. |
オノフリ | イル・ジアルディーノ・アルモニコ |
カルミニョーラ | ヴェネチア・ヴァロックO. |
カルミニョーラ | ソナトリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカ |
ビオンディ | エウロパ・ガランテ |
フォンタネッラ他 | インテルプレーティ・ヴェネツィアーニ |
ハロウェイ他 | ホグウッド(指揮)A.E.M. |
ポンシェル | トン・コープマン(指揮)A.B.O. |
クイケン | ラ・プティットバンド |
スタンテイジ | ピノック(指揮)イングリッシュ・コンソート |
シュレーダー | コンセルト・アムステルダム |
バンチーニ | パロット(指揮)タヴァナー・プレイヤーズ |
ラモン | ターフェル・ムジーク |
鬼才クレーメルの四季は楽しい演奏だ。冬のラルゴがアレグロのようだ。これは冷たく激しい冬の雨が窓に打ち付けているという情景から来るのだそうだ。雪の釧路湿原(雪原)をタンチョウヅルが優雅に舞うラルゴの風景を一掃する。グリエルモ(vn)&イタリア合奏団の「四季」はよく「四季」の推奨版と音楽雑誌などに掲載されていた。明るく生き生きした快演と感じる。トーゾ(vn)&シモーネ盤はシモーネがヴァイオリンの弓を左右にいっぱいに弾くジェスチャーをする指揮風景が目に浮かぶようなレガートな演奏である。ウート=ウギが弾くヴァイオリンはオブラートがかかってるような優しい音色で穏やかな美音で満ちている。「四季」を世界中に向けて広げたイ・ムジチ合奏団は”イム寿司”とも呼称された自他ともに認める日本通であるそうだ。「四季」と言えば日本ではいつもイ・ムジチ合奏団であった。世界でもそうであったかもしれない。イ・ムジチの演奏は中庸でだから安定感があると評される。「四季」の定番である。
Le Quattro Stagioni 2 ~modern instruments /my collection~
ソロ・ヴァイオリン | オーケストラ |
ピーボディ | キャップ(指揮)Ph・ヴィルトゥオーゾ |
クレーメル | アバド(指揮)ロンドンS.O. |
ムローヴァ | アバド(指揮)E.C.O. |
フューリ | カメラータ・ベルン |
グリエルモ | イタリア合奏団 |
トーゾ | シモーネ(指揮)イ・ソリスティ・ヴェネティ |
ビュヒナー | レーデル(指揮)ミュンヘン・プロアルテC.O. |
ブラウン | マリナー(指揮)A.St-M.F. |
ウギ | イル・ヴィルトォーゾ・St-チェチーリア |
シャハム | オルフェウスC.O. |
ボベスコ | ハイデルベルクC.O. |
ケネディ | ケネディE.C.O. |
コングリアーノ | カンテルリN.P.O. |
シュヴァルツ | キプニス(指揮)コネチカット・アーリーEn. |
ムター | カラヤン(指揮)W.P.O. |
アーヨ | イ・ムジチ合奏団 |
アゴスティーニ | イ・ムジチ合奏団 |
シルブ | イ・ムジチ合奏団 |
グッリ | シャイ―(指揮)Ph.テアトロ・コムナーレ |
ジャリ | パイヤール室内管弦楽団 |
オレフスキー | シェルヘン(指揮)W.S.Op.O. |
モリナーリ | モリナーリ(指揮)St-セチーリアO. |