♪フルトヴェングラー(1886~1954)

20世紀前半のマエストロ、ベルリンフィルの指揮者、ヴィルヘルム=フルトヴェングラー。没後半世紀が過ぎて今なお彼のCDは世界中で販売されている。特にベートーヴェンやブラームスを中心としたドイツ音楽においては他の指揮者を圧倒する。そのエモーショナルな演奏は卑近な言い方をすれば強烈な「魂」の音楽である。世界中の人が感動と生きる元気と勇気をもらい、またもらいにいく音楽だ。その中でもベートーヴェンの交響曲・序曲・協奏曲は最高だ。

フルトヴェングラー指揮の第九のCD

音楽芸術を通して常に人間の価値や生命の輝きを叫び続けた巨匠といえる。これほど内なる人間の精神、内なる良心の声、ヒューマニズム、そしてナチスへ立ち向かう勇気や正義を貫いた音楽家は他にいただろうか。暴力に対して引き下がらず自由と正義のために頑強に戦い続けたガンジー、キング牧師、マンデラ、アウンサン=スー=チー… フルトヴェングラーはその偉大さにおいてこの歴史の巨匠たちと重なる。ナチスのプロパガンダに利用されたこの世界的指揮者がベートンヴェンの第九をナチスの前での強いられた演奏、右手に持った指揮棒を利用してナチス式敬礼を拒否したぎりぎりの抵抗をわれわれは当時の映像で見ることができる。第九のコーダの部分がアッチェランドしていく部分はまさしく人類の遺産ともいうべきこのベートヴェンの交響曲とともに観客席の制服連中に立ち向かっていく演奏そのものである。空前絶後の第九。

1942フルトヴェングラー「歓喜の歌」

フルトヴェングラーは外国での演奏活動の誘いも受け入れずナチス・ドイツを離れなかった。ゲッベルスやヒムラーらナチス幹部からマークされているにもかかわらずギリギリのところで愛するドイツに踏みとどまった。それがかえってナチスとの協力を噂され誹謗中傷につながった。そして戦後2年間はそれゆえに演奏活動を停止させられた。エリーザベト夫人(2013年没)はその手記の中で人がフルトヴェングラーの精神状況を理解するのは困難であろうと語っている。神童と言われた名ヴァイオリニストで彼の良き友であったメニューインは戦後フルトヴェングラーを救援した。

人間の勇気や強さはいつの時代でも残酷にも試されている。吉野源三郎の名著「君たちはどう生きるか」でコぺル君が試されたように。ますます紛争や暴力のはびこる21位世紀の今こそ「人間的に生きる」ことの大切さを叫び続けるフルトヴェングラーの音楽を!!