春は名のみの風の寒さや…安平の風景
日本一古い木製サイロ(1930年建築)…残念ながら昨年(2015年)危険なので取り壊したそうで、現在は2基あったうち1基のみがみられる。安平町の山田牧場にある。安平は千歳と苫小牧の東部に位置する酪農の町。広々とした牧場風景が広がる。早春の安平は雪もほとんどなく冷たい風が、人影も見かけない静かな牧場風景をいっそう静寂なものにする。
いわゆるかつての文部省唱歌である「早春譜」は長野県安曇野が背景であるそうだが、ここ北海道安平の早春もこの名曲がぴったりだ。
♪ 早春譜 作詞:吉丸一昌 作曲:中田章 1913年 ♪
1 春は名のみの 風の寒さや
谷の鶯 歌は思えど
時にあらずと 声も立てず
時にあらずと 声も立てず
2 氷解け去り 葦は角ぐむ
さては時ぞと 思うあやにく
今日もきのうも 雪の空
今日もきのうも 雪の空
3 春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思いを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か
*サイロ:米・小麦・トウモロコシ・大豆などの穀類や家畜飼料を保存・貯蔵する円柱形の倉庫。
北海道の牧場風景はそれを見るたびに解放感と雄大さに感動する。そして大自然との一体化を体験する。大きな牛舎や牧場主宅に至るまでは広々とした牧場の中でかなりの距離を感じる。
冷たい風を顔に感じながら時間や空間やカントの認識論や…こんな静寂の中でふと学生時代哲学科で学んだ西洋哲学のことが思い起こされてくる。古代ギリシア哲学の教授がニヒリズムはニーチェばかりでなくソクラテスにもあるって言っていたことを懐かしく思い出す。人生の遊戯性ということや真理というものは創造するものであり想像された真理を根拠や前提に人は諸事を判断しているのだ、絶対的なものなど存在しない…「真理は作るものだ」と科学哲学の授業で教わった。
北海道の安平の大自然の中で精神が穏やかになり人生を遠望する。
カントの墓碑銘に刻まれている「それを思うことが、度重なれば重なるほど、また長ければ長いほど、ますます新たな、かつますます強い感歎と崇敬の念とをもって、心を満たすものが二つある。我が上なる星空と、わが内なる道徳法則とである。」(カントの「判断力批判」より)のような崇高で清澄な精神がこの 大自然が重なる。